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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1462号 判決 1967年6月30日

控訴人 株式会社文教住宅社

右代表者代表取締役 植草平太郎

右訴訟代理人弁護士 吉田欣二

同 河野嘩二

被控訴人 鎮目富繁

右訴訟代理人弁護士 風間武雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一  ≪証拠省略≫によれば、被控訴人の妻鎮目きみは被控訴人を代理して昭和三八年一二月三〇日控訴人の従業員であった上羽秀人との間で、被控訴人を買主とし控訴人を売主として、本件土地につき代金八七万七五〇〇円で売買契約を結んだこと、被控訴人は上羽に対し右契約の日に一〇万円を手附金として、昭和三九年一月一〇日一七万七五〇〇円、同年同月三一日一〇万円、同年二月二九日一五万円をそれぞれ代金の内入として支払ったこと、右売買契約において手附金は最終的には代金の一部に充当されるが売主である控訴人がその義務を履行しないときは被控訴人に対し領収した手附金と同額の損害金を支払うとの約定があること、以上の各事実が認められる。

二  そこで上羽に控訴人を代理する権限があったかどうかを検討するに、上羽が控訴人の従業員として土地売買の契約勧誘および条件の交渉の権限を有していたことは当事者間に争いがなく、また上羽が後記のとおり控訴会社の営業部長の名称の使用を許されていたと認めることができるが、そうであるからといって当然に同人が商法第四三条によって控訴人の営業に属する土地売買の契約締結および代金受領の代理権をも有していたとすることはできない。商法第四三条は番頭、手代などの名称の使用を許されているというだけでその者に同法所定の広汎な代理権を賦与するという趣旨ではなく、番頭、手代と称される者が営業主より一定の事項について法律行為をする委任を受けている場合に限り当該事項に関する一切の裁判外の行為をするにつき代理権を有する旨規定したものと解すべきであるからである。そうして、本件においては全証拠によっても上羽が控訴人より右の意味で一定事項の委任を受けたと認めることはできない(附記の契約の勧誘および条件の交渉などは単に控訴人の使者として行う事実行為にすぎない)から、上羽は商法第四三条にいう商業使用人と認めることはできない。

なお、被控訴人は民法第一一〇条の表見代理による控訴人の責任を主張するが、その基本となる代理権が認められないことは右に説示したとおりであるから、右の主張もまた理由がない。

三  しかしながら、当裁判所は上羽の前認定の行為(契約締結および代金受領)については控訴人が民法第一〇九条によりその本人として責を負うべきものと判断するものであって、その理由は左の点を附加するほか原判決の理由(原判決第八丁裏第三行以下第一〇丁裏第一〇行まで)に記載してあるとおりであ(る)。≪証拠判断省略≫すなわち、当裁判所が引用する原判決の理由説示のとおり、控訴人はその従業員であった上羽に控訴人のためその営業の一部である土地売買の斡旋につき顧客と折衝するにあたって控訴会社営業部長の名称を使用することを許したものであるが、右の「部長」という呼称は、会社その他の近代企業における課長、係長、主任などの呼称と同様あるいはより一層明確な意味で、営業主である当該企業における特定の事項に関する代理権を有する商業使用人の呼称であると、一般に理解されているものであって、商法が使用しているわが国旧来の商業使用人の呼称である番頭、手代に当るものである。したがって、不動産取引を業とする被告が、上羽に対し営業部長の名称の使用を許しながら、内部的にはその名称にふさわしい広汎な権限を与えていなかった本件においても、一般第三者に対しては上羽に本件不動産売買の契約締結および代金受領に関する代理権を与えた旨を表示したものと認めるべきものである。そして前記認定のとおり被控訴人は本件土地売買契約を結ぶにつき上羽が控訴人より代理権を与えられたものと信じ、右信ずるにつき無過失であったのであるから控訴人は右売買契約について責任を負わなければならない。

四  しかして原審における控訴人代表者尋問の結果によると、本件土地は東海物産株式会社が所有し控訴人にその分譲を委託していたが、昭和三八年八月三一日その委託の期間が終了していたもので、控訴人は以後その処分権を失い、本件土地を原告に譲渡することができなくなったことが認められ、被控訴人より控訴人に対し昭和三九年五月一九日到達の書面で履行不能を理由に本件売買契約を解除する旨の意思表示をするとともに、被控訴人主張の金員の返還を請求したことは当事者間に争いがない。

五  そうすると、控訴人は被控訴人に対しすでに支払った手附金一〇万円、内入代金四二万七五〇〇円、約定損害金一〇万円合計六二万七五〇〇円およびこれに対する右請求の翌日である昭和三九年五月二〇日以降完済まで商事法定利率年六分の遅延損害金を支払う義務があり、被控訴人の本訴請求は全部理由があることに帰し、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口茂栄 裁判官 鈴木敏夫 友納治夫)

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